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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)6929号 判決 1991年12月06日

両事件原告(両事件反訴被告) 国内信販株式会社

右代表者代表取締役 塚本英志

右訴訟代理人弁護士 河合勝

六九二八号事件被告(反訴原告) 桝本里美(旧姓山岡)

六九二九号事件被告(反訴原告) 小倉保雄

右両名訴訟代理人弁護士 木村達也

右訴訟復代理人弁護士 浦川義輝

同 中紀人

右両名訴訟代理人弁護士 尾川雅清

同 田中厚

主文

一  平成二年(ワ)第六九二八号、同第六九二九号事件原告(両事件反訴被告)の各請求を棄却する。

二  平成二年(ワ)第六九二八号事件被告(反訴原告)、同第六九二九号事件被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は両事件の本訴反訴を通じて二分し、その一を両事件原告(反訴被告)の負担とし、その余を両事件被告ら(反訴原告ら)の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(六九二八号事件本訴)

被告(本訴反訴を通じ単に被告という。)桝本里美は原告(本訴反訴を通じ単に原告という。)に対し二二万〇八〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月二五日から支払ずみまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

(同事件反訴)

原告は被告桝本里美に対し三〇万円及びこれに対する平成二年八月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(六九二九号事件本訴)

被告(本訴反訴を通じ単に被告という。)小倉保雄は原告(本訴反訴を通じ単に原告という。)に対し四〇万八〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年八月二八日から支払ずみまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

(同事件反訴)

原告は被告小倉保雄に対し三〇万円及びこれに対する平成二年八月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信販会社である原告が被告らに対し、ショッピングクレジット契約にもとづく電気製品代金立替金の支払を求め、仮に被告らが購入したものでなかったとしても、被告らは、中川デンキ萱島店こと吉松博(以下、本件加盟店、又は、単に吉松という。)に対し不法に名義使用の許諾をしたもので、右行為により原告は被告らを右契約の当事者と誤認して契約を締結したとして商法二三条の法意にもとづき支払を求めたのに対し、被告らが、右契約は本件加盟店が被告ら顧客を購入者としてその氏名を冒用してなしたもので、被告らに支払義務はないとして争い、相殺の抗弁、並びに反訴として、吉松は以前から周辺住民の顧客多数の氏名を冒用して原告との間に架空のクレジット契約を結び、立替金を取得流用しており、倒産し行方不明になっている事情があり、同種事例が社会的問題となり、これを防止するため通産省の通達も出されているのに、原告は、本件加盟店との加盟店契約時の審査を怠り、同店に対する調査監督義務を尽くさず、被告らの契約意思の確認も怠ったものであって、原告の請求に対する被告らの異議申出に対しても、本件加盟店の倒産、空売りの実情について充分な調査をすることなく、門真市消費生活相談コーナー担当者の円満な解決のための努力を無視し、画一的に強硬な法的手段に訴え、しかも、当初枚方簡易裁判所に申立てた支払命令の訴訟係属中に大阪簡易裁判所に二重に提訴し、その後前訴を取り下げることにより被告らに無用の応訴を強いるなどして本訴を提起追行したことは権利の濫用であって不法行為にあたるとして、応訴により被告らが被った損害の賠償を求め、原告は、被告らが本件加盟店に名義を貸したという事情を被告らから聴取したので支払を求めたものであって、支払いがなければ法的請求手続をとる旨伝えたうえ本訴に及んだとして争う事案である。

(争いのない事実)

原告は割賦購入斡旋を目的とする会社である。

原告の加盟店である本件加盟店は昭和六三年八月ころ倒産し、吉松は行方不明となった。

原告は、被告桝本に対し昭和六三年一〇月三日、被告小倉に対し同年一〇月一日各到達の書面で、二〇日間の期間を定めて未払金の支払を催告した。

(争点)

(六九二八号事件)

一  原告と被告桝本間に、昭和六二年七月一五日、次の内容のクレジット契約が結ばれたか。

(1) 被告は原告に対し電気製品代金二七万円を本件加盟店へ立替払することを委託する。

(2) 被告は原告に対し、右立替金に手数料六万二一〇〇円を付加した合計三三万二一〇〇円を、昭和六二年一二月一七日限り一万四七〇〇円、同六三年一月から平成元年一一月まで毎月二七日限り一万三八〇〇円ずつ二四回に割賦払する。

(3) 被告が右割賦金の支払を遅滞し、原告より二〇日以上の期間を定めた書面でその支払を催告され、右期間内に支払わないときは、期限の利益を失う。

(4) 遅延損害金は年六パーセントの割合とする。

二  原告は昭和六二年七月三一日本件加盟店に対し、右商品代金を立替払したか。

三  被告桝本は原告に対し、次のとおり支払をしたか。

昭和六二年一二月二八日 一万四七〇〇円

昭和六三年一月三〇日 一万三八〇〇円

同年三月七日 同右

同年三月二八日 同右

同年五月一〇日 同右

同年五月三一日 同右

同年七月七日 同右

同年八月八日 同右

(以上合計一一万一三〇〇円)

四 仮に、被告桝本が右契約を締結しなかった場合、同被告は吉松に対し、昭和六二年六月二三日右契約につき自己の名義を貸与したか。

五 原告の被告桝本に対する本件訴訟の提起は、その経緯を含め、権利の濫用として不法行為を構成するか。同被告に右不法行為による損害を生じたか。

(六九二九号事件)

一  原告と被告小倉間に、昭和六三年四月二四日、次の内容のクレジット契約が結ばれたか。

(1) 被告は原告に対し電気製品代金四〇万円を本件加盟店へ立替払することを委託する。

(2) 被告は原告に対し、右立替金に手数料八〇〇〇円を付加した合計四〇万八〇〇〇円を昭和六三年八月二七日限り一括払する。

(3) 遅延損害金は年二九・二パーセントの割合とする。

二  原告は昭和六三年三月一五日本件加盟店に対し、右商品代金を立替払したか。

三  仮に、被告小倉が右契約を締結しなかった場合、同被告は吉松に対し、昭和六二年六月二三日、右契約につき自己の名義を貸与したか。右貸与を同被告の妻がした場合、同被告に履行義務を生じるか。

四  原告の被告小倉に対する本件訴訟の提起は、その経緯を含め、権利の濫用として不法行為を構成するか。同被告に右不法行為による損害を生じたか。

第三争点に対する判断

(六九二八号事件本訴)

一  《証拠省略》によれば、原告の加盟販売店における商品の購入者が原告に対し、商品代金を購入者に代わって販売店に立替払することを委託する立替払契約は、通常、加盟店から原告に電話による申込がなされ、原告においてその内容をショッピングクレジット電話受付表に記載したうえ、その内容にもとづき原告から購入者に電話による確認を経て、原告が委託を受諾し、ショッピングクレジット契約が締結されるという経過をたどること、原告の被告桝本(旧姓山岡)に対する本件立替金請求にかかる右受付表には、購入者欄に同被告の氏名、住所、勤務先とその所在地等、連帯保証人欄に同被告の父山岡実の氏名、住所、勤務先とその所在地等、口座振替欄に口座名義人を山岡実とする指定口座等が記載され、商品名としてエアコン、価格二七万円と手数料及びその分割支払方法が記載され、お申込内容確認欄には、昭和六二年七月一七日、購入者本人に電話し、内容が一致した旨、両親が不在であった旨、また、同月一八日、前記山岡実の保証の意思を妻に確認した旨の記載があること、右受付表記載の購入者、保証人、商品名、代金等支払方法を内容とする、購入者と保証人名義の押印のある昭和六二年七月一八日付ショッピングクレジット契約書が作成されていることが認められる。

二  ところで、右契約書記載の商品エアコンは、購入者として記載されている被告桝本に納入されていないことが明らかであり、原告は同被告に関する立替金につき、名義貸としてその回収処理にあたっていることが認められる。

そこで、同被告名義使用の承諾の有無についてみるに、前記のとおり、契約書作成に先立ち原告から同被告本人に確認した結果として、電話受付表には申込内容と一致する趣旨の記載はあるが、購入者欄の事項につき確認を終えた旨の朱書の丸印等の記入はなく、「両親不在」との記載、「妻(秀子)」に対する確認の記載、及び、口座振替欄の山岡実名義、連帯保証人欄の山岡実に関する事項の朱書丸印の記載があること、並びに、《証拠省略》を総合すると、原告の担当者と被告桝本の母山岡秀子との間でショッピングクレジット申込の内容及び秀子の夫山岡実に関する事項につき若干の確認がなされたことは窺えるものの、被告桝本名義の使用につき同人自身による承諾の事実を認めるには足りない。もっとも、同被告は前記クレジット契約書の購入者欄の記載が自己の文字であることを認めているが、右契約書に必ずしも購入者の自署が要求されているとは考えられず(被告小倉に関する同契約書の購入者欄は、同被告本人の供述により、同被告自身が記載したものでないことが認められる。)、名義貸であれば却って吉松の側で任意記載しても不自然でないのであり、購入者欄を自己が記載した右契約書は別途使用の予定で作成してあったものである旨の被告桝本本人の供述をも併せると、右契約書の記載も前記判断を左右しない。

(六九二九号事件本訴)

一  原告の被告小倉に対する本件立替金請求にかかるショッピングクレジット電話受付表には、購入者欄に同被告の氏名、住所、勤務先とその所在地等、口座振替欄に口座名義を同被告とする指定口座等が記載され、商品名として、冷蔵庫、テレビ、掃除機、価格合計四五万九〇〇〇円、頭金五万九〇〇〇円、残金四〇万円とその支払期が記載され、お申込内容の確認欄には、昭和六三年二月二四日、妻伸子に電話し内容が一致した旨の記載と、右購入者欄及び口座振替欄の各事項に確認を示す朱書の丸印の記載があること、右受付表記載の内容による購入者名義の押印のある昭和六三年二月二四日付ショッピングクレジット契約書が作成されていることが認められる。

二  右契約書記載の各商品が購入者として記載されている被告小倉に納入されていないことは明らかであり、これらの商品を同被告が購入したものではなく、本件加盟店側において、予め被告小倉から聞いていたところにしたがい、前記クレジット契約書に購入者を同被告として記入し、同被告名義を用いて開設した銀行口座を記載したものと認められ、原告としても同被告に関する立替金について、名義貸としてその回収処理にあたっていることが認められる。

そこで、被告小倉の名義使用承諾の有無についてみるに、前記のとおり、電話受付表によれば、原告から同被告方にクレジット申込の内容を電話で確認した際、同被告の妻の回答がなされているが、同被告本人に対する直接の確認はなされておらず、《証拠省略》によっても同被告自身による名義使用の承諾を認めるに足りず、他に、これを認めるべき証拠はない。もっとも、右妻の回答の事実及び証拠によれば、妻が同被告名義の使用について承諾を与えたことが推認されるが、電気器具の購入を妻がなしたのであればともかく、名義使用の許諾行為をもって日常の家事に関する法津行為と言えないことは明らかであるから、被告小倉の債務は生じない。

(両事件反訴)

一  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1 原告は昭和五九年二月本件加盟店から加盟の申込を受け、原告寝屋川営業所による審査、近畿地区本部統括部長の許可決裁を経て、申込の五日後の同月一八日、加盟店契約を結んだ。一般に、加盟店が、訪問販売とか、五〇万円以上の高額商品あるいは換金性の高い商品を扱う場合には、契約にあたり原告は加盟店に対し保証金や保証人を要求することになっているが、本件加盟店についてはこれに該当しないとして、保証金もなく、保証人も立てられてはいないし、吉松所有の同店の土地建物について原告に対する担保設定もなされていない。

2 加盟以来、原告の寝屋川営業所が把握した本件加盟店の経営状態は、他店よりやや売上が少ない程度のものであり、週一、二回同店を訪ねる右営業所の営業担当者からは特に不良店としての報告もなく経過していたが、実情は、昭和六二年当時からすでに不振であって、昭和六三年八月本件加盟店は倒産し、前記吉松は店を閉じたまま行方不明となった(右倒産と吉松の行方不明の事実は、当事者間に争いがない)。前記営業所長川村昌治は営業担当者からそのことを聞き、閉店の事実を確かめたうえ、原告の近畿地区本部長の指図にもとづき同店関係の残債の調査回収、右吉松の資産内容の調査等に着手したが、その間、同月一八日顧客からの電話連絡により不正売上(名義貸、商品未納)の事実を知ったので、残債のある顧客との電話あるいは面談による接触を持ち、被告らを含む原告寝屋川営業所の本件加盟店関係の一六件を名義貸による不正売上として、名義貸の顧客から分割払、減額等の方法によりその回収を計る方針のもとに交渉がなされてきた。

3 右交渉の過程で、被告小倉は昭和六三年九月二日、被告桝本は同月五日、門真市消費生活相談コーナーに相談を申し出、相談員の指導により、被告らは、購入した覚えがないから支払えない旨の「支払停止のお申出の内容に関する書面」を作成して原告に送付し、原告の各被告に対する同年一〇月一日付支払催告書(右催告の事実は当事者間に争いがない。)に対しては、それぞれ、契約の事実がない旨の契約無効通知書を送付した。他方、相談員から前記営業所長川村に対する事情の問い合わせに対し、川村所長は、契約がされている趣旨の回答をしており、前記支払停止申出書面について原告側から何の連絡もないまま、被告らを各購入者とする前記立替金につき枚方簡易裁判所の平成元年六月二三日付各支払命令が被告らのもとに送達され、被告らは、同様相談員の指導により、支払命令に対する異議申立をした。右訴訟が係属する間に、平成元年七月一一日門真市役所において、本件加盟店関係の被告ら及び同様の相談者達と市民産業課長、消費生活係長、相談員らが原告の寝屋川営業所の後継所長である今別府規夫と面談し、右所長から債務額の三分の一の支払が提案されたが、被告らは支払うことを拒んだので、同所長はさらに減額を本社と検討するということで同日の交渉は終わり、その後の進展はなかった。

4 原告は被告らに関する未収事案を以上のとおり寝屋川営業所において処理してきたが、未収期間の長期化に伴う内部的定めに従い、その処理を大阪支店の本管理課に移管した。右移管の際一件書類の送付に遅れて前記訴訟の記録が送られ、その引継ぎに不備があったため、本管理課は被告らに対する右訴訟内容と同一の本件各立替金請求訴訟を平成二年六月四日大阪簡易裁判所に提起し、二重提訴を知った前記今別府の指示により、枚方簡易裁判所の事件は取下げられた。

二  以上の認定事実及び前記両本訴事件における認定事実によると、原告の被告らに対する立替金請求は、その法的構成ないし吟味の適切か否かはともかく、本件各被告により本件加盟店に対する名義貸がなされたとの判断を持ったことは必ずしも不当とは言えず、これによる責任を負担すべきものとの観点から訴訟提起に及んだものと考えられ、加盟店契約締結の前後を通じ、本件加盟店に対する調査、監督が不十分であったことは否定できず、一時的とはいえ、二重提訴の状態を生じたことは被告らの置かれた立場に対する認識、配慮を欠き相当でないが、これら本件に表れた諸事情を考慮しても、原告の被告らに対する本件請求が著しく相当性を欠く違法のものということはできない。

三  以上により、その余の点についてみるまでもなく、原告の被告らに対する各本訴請求、被告らの原告に対する各反訴請求はいずれも理由がない。

(裁判官 松本克己)

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